題しらす よみ人しらす
しらくもにはねうちかはしとふかりのかすさへみゆるあきのよのつき (191)
白雲に羽うちかはし飛ぶ雁の数さへ見ゆる秋の夜の月
「白雲に羽を交えて飛ぶ雁の数まで見える秋の夜の月の明かるさ。」
「さへ」は副助詞で添加を表す。他にも見えるものがあることを暗示する。「秋の夜の月」と格助詞の「の」繰り返しによって焦点を絞っていく。
空の高い高いところにある白雲、そのあたりを何羽もの雁が羽を重ね交えて飛んで行く。その数までもはっきりと見て捉えることができる。何と秋の夜の月の明るいことか。
「白雲」は、空の高さを伝えている。つまり、地上から離れていることを伝えている。「白雲に羽うちかはし飛ぶ雁」は、その様子を正確に描写している。遠く離れているにもかかわらず、その様子が捉えられることを伝えている。そして、「数さへ見ゆる」で、雁の数までも見えることの驚きを伝えている。秋の月の明るさは格別である。遠く離れた雁の数まで見えるのだから、どんな物でも見えてしまう。つまり、秋がいかに月が明るい季節であるかをこう表現したのである。
コメント
雁というとなんとなく夕暮れ時を思い浮かべてしまうのですが「白雲」と先ず一群れの白い塊、そしてそれをバックに雁が登場、羽を打ち交わすのだから複数羽いることを連想させ、数を数えるというのだから二羽どころではない、何羽も連なって飛んでいる。ここまでクッキリと情景を映し出すのだからぼんやりと夕暮れということはない。そして「秋の夜の月」、一気に情景が夜へと反転、煌々と光る月の光の照らし出す世界。闇との対照で一層雁の飛ぶ様子がクローズアップされます。遥か上空、雲より高く、秋の夜空に浮かぶ大きな月へと視線が導かれます。真打ち登場、ですね。
表現に即した素晴らしい鑑賞です。表現者に喜ばれます。「ああ、ちゃんと伝わりましたね!」と。そして、この鑑賞を聞いた者は、誰でも、言葉への不信ではなく、信頼を抱くことでしょう。