よふけてくればところどころもみえず。京にいりたちてうれし。いへにいたりてもんにいるに、つきあかければいとよくありさまみゆ。ききしよりもましていふかひなくぞこぼれやぶれたる。いへにあづけたりつるひとのこころもあれたるなりけり。なかがきこそあれ、ひとついへのやうなればのぞみてあづかれるなり。さるはたよりごとにものもたえずえさせたり。こよひかゝることゝこわだかにものもいはせず、いとはつらくみゆれどこころざしはせむとす。
夜更けて来れば所々も見えず。京に入り立ちて嬉し。家に至りて門に入るに、月明ければいとよく有様見ゆ。聞きしよりもまして言ふ甲斐なくぞ毀れ破れたる。家を預けたりつる人の心も荒れたるなりけり。中垣こそあれ、一つ家のやうなれば望みて預れるなり。さるは便り毎に物も絶えず得させたり。今宵かゝることゝ声高にものも言はせず、いとはつらく見ゆれど志はせむとす。
たよりごとに：ついでがある度に。
問１「いへにあづけたりつるひとのこころもあれたるなりけり」とあるが、「いへを」ではなく、「いへに」となっているのはなぜか、説明しなさい。
問２「こよひかゝることゝこわだかにものもいはせず」とあるが、その理由を説明しなさい。
問３「いとはつらくみゆれどこころざしはせむとす」とあるが、その理由を説明しなさい。
コメント
夜更けともなって辺りは暗くなり、街の様子も分からない、家に辿り着いた頃、スポットライトに照らされるが如く昇った月の光に浮かんだ我が家は、、ショックだった事でしょう、、
問一 わかりません、、家の荒廃自体にも落胆はあったのでしょうけれど、家の管理を請け負ってくれた隣人の心変わりの方により心を痛めたから、でしょうか？
問ニ 自分自身も家の者たちも、物申したいのは山々だけれど、文句を言った所で詮ない事だし、もし、それを隣人が聞きつけたら、面倒を見てやったのにと逆恨みされかねない。お互いに嫌な思いをすると分かっている事を家人が言わないようにたしなめた。
問三 我が家の状態に心は痛めても、元々は好意で家の管理を請け負ってくれた事に対しては礼を尽くしておく事で今後の付き合いに禍根を残さないようにする為。お隣なだけに。
月が明るいのだから、街の様子が見えてもいいのに、建物の影に隠れてしまったのでしょうか。家へ家へと急いでいたからでしょうか。それに対して、我が家はじっと見つめます。
問１ 主体が「家」になっています。関心が家にあるからでしょう。また、隣人は、主体にするに値しないからです。
問２ 夜、聞こえよがしに文句を言うというのもみっともないものですね。
問３ それが憂き世のお付き合いというものですね。つらいけど･･･。