十二日、やまさきにとまれり。
十三日、なほやまさきに。
十四日、あめふる。けふくるま京へとりにやる。
十五日、今日くるまゐてきたれり。ふねのむつかしさにふねよりひとのいへにうつる。このひとのいへよろこべるやうにてあるじしたり。このあるじのまたあるじのよきをみるに、うたておもほゆ。いろいろにかへりごとす。いへのひとのいでいりにくげならずゐやゝかなり。
十二日、山崎に泊まれり。
十三日、なほ山崎に。
十四日、雨ふる。今日車京へ取りにやる。
十五日、今日車率て来たれり。船の難しさに船より人の家に移る。この人の家喜べるやうにて饗したり。この主の又饗のよきを見るに、うたて思ほゆ。色々に返り事す。家の人の出で入り憎げならずゐやゝかなり。
むつかしさ:不快さ。
よろこべるやうにてあるじしたり:喜んでいるようにもてなした。
うたておもほゆ:何だか嫌な思いがする。不快に思われた。
いでいり:立ち居振る舞い。
ゐやゝかなり:礼儀正しい様子だ。
問1「このあるじのまたあるじのよきをみるに、うたておもほゆ」とは、どういうことを言うのか、説明しなさい。
問2「いへのひとのいでいりにくげならずゐやゝかなり」とあるが、なぜこんなことを言うのか、説明しなさい。
コメント
もう京まであと一歩と言うところでまた足止め。海の真ん中だったら我慢するしか無いけれど、ここまで来たら船での寝泊まりはもう限界、急場のこと、船を降りて「人の」と言うのだから、親しい間柄ではない家に厄介になる事になったのですね。
問一 親しい間柄ではない、急な客だと言うのに、家の主人から思わぬ歓待を受け、これまでのこともあり、返礼目当てのご機嫌取りかと疑い、不快に思った。
問ニ 歓待に対し、返礼の義理を果たした。家の主人はそれに対して立居振る舞いも礼儀正しく、こちらの思い違いであった。この家の主人はもしかしたら船旅を経験していて旅人の意を汲む事が出来たのかもしれない。思い込みで人を判断するべきでない。
これまでの流れを酌んだお答えです。書き手の心は、船君(=貫之)に寄り添ったものになっていますね。
あまり親しくない者に親切にされると、下心があるのではないかと疑心暗鬼になるものです。この家の主人はどうだったのでしょう?
本当のところはわかりませんが、取り敢えずそういう素振りは見せなかったようです。返礼に満足したからでしょうか?
それとも、すいわさんのおっしゃるように、経験上旅人の意を汲むことができたからでしょうか?その辺りは、詠み手の判断に委ねています。