2020-08

古典

嗚呼、何等の特操なき心ぞ

二三日の間は大臣をも、たびの疲れやおはさんとて敢《あへ》て訪《とぶ》らはず、家にのみ籠り居《をり》しが、或る日の夕暮使して招かれぬ。往きて見れば待遇殊にめでたく、魯西亜行の労を問ひ慰めて後、われと共に東にかへる心なきか、君が学問こそわが測り...
古典

産れん子は君に似て黒き瞳子をや持ちたらん

戸の外に出迎へしエリスが母に、馭丁を労《ねぎら》ひ玉へと銀貨をわたして、余は手を取りて引くエリスに伴はれ、急ぎて室に入りぬ。一瞥《いちべつ》して余は驚きぬ、机の上には白き木綿、白き「レエス」などを堆《うづたか》く積み上げたれば。  エリスは...
古典

此刹那、低徊踟蹰の思は去りて

我心はこの時までも定まらず、故郷を憶《おも》ふ念と栄達を求むる心とは、時として愛情を圧せんとせしが、唯だ此刹那《せつな》、低徊踟蹰《ていくわいちちう》の思は去りて、余は彼を抱き、彼の頭《かしら》は我肩に倚りて、彼が喜びの涙ははら/\と肩の上...