2019-08

古典

第七十五段 ~口説きあぐねる~

昔、男、「伊勢の国に率(ゐ)ていきてあらむ」といひければ、女、 大淀の浜に生ふてふみるからに心はなぎぬかたらはねどもといひて、ましてつれなかりければ、男、 袖ぬれてあまの刈りほすわたつうみのみるをあふにてやまむとやする女、 岩間より生ふるみ...
古典

第七十四段 ~恋は駆け引き~

昔、男、女をいたう恨みて、 岩根ふみ重なる山にあらねどもあはぬ日おほく恋ひわたるかな  昔、男が女をひどく恨んで、〈あなたの心は、根が生えたように動かない大きな岩(「岩根」)が踏み重なる山ではないけれど、あなたがつれなくて逢えない日が多く、...
古典

第七十三段 ~月の桂のような女~

昔、そこにはありと聞けど、消息をだにいふべくもあらぬ女のあたりを思ひける、 目には見て手にはとられぬ月のうちの桂のごとき君にぞありける  そこにいることは聞いているけれど、手紙で近況をさえ言うことができない女が住むあたりを思って詠んだ、〈目...