古典

クロステル巷 心の恍惚

或る日の夕暮なりしが、余は獣苑を漫歩して、ウンテル、デン、リンデンを過ぎ、我がモンビシユウ街の僑居《けうきよ》に帰らんと、クロステル巷《かう》の古寺の前に来ぬ。余は彼の燈火《ともしび》の海を渡り来て、この狭く薄暗き巷《こうぢ》に入り、楼上の...
古典

往きてこれと遊ばん勇気なし

彼《かの》人々の嘲るはさることなり。されど嫉むはおろかならずや。この弱くふびんなる心を。 赤く白く面《おもて》を塗りて、赫然《かくぜん》たる色の衣を纏《まと》ひ、珈琲店《カツフエエ》に坐して客を延《ひ》く女《をみな》を見ては、往きてこれに就...
古典

母の手に育てられしによりて

彼人々は余が倶《とも》に麦酒《ビイル》の杯をも挙げず、球突きの棒《キユウ》をも取らぬを、かたくななる心と慾を制する力とに帰して、且《かつ》は嘲《あざけ》り且は嫉《ねた》みたりけん。されどこは余を知らねばなり。嗚呼、此故よしは、我身だに知らざ...