古典

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人に否とはいはせぬ媚態あり

彼は優《すぐ》れて美なり。乳《ち》の如き色の顔は燈火に映じて微紅《うすくれなゐ》を潮《さ》したり。手足の繊《かぼそ》く裊《たをやか》なるは、貧家の女《をみな》に似ず。老媼の室《へや》を出でし跡にて、少女は少し訛《なま》りたる言葉にて云ふ。「...
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そが傍に少女は羞を帯びて立てり

余は暫し茫然として立ちたりしが、ふと油燈《ラムプ》の光に透して戸を見れば、エルンスト、ワイゲルトと漆《うるし》もて書き、下に仕立物師と注したり。これすぎぬといふ少女が父の名なるべし。内には言ひ争ふごとき声聞えしが、又静になりて戸は再び明きぬ...
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咳枯れたる老媼の声

人の見るが厭はしさに、早足に行く少女の跡に附きて、寺の筋向ひなる大戸を入れば、欠け損じたる石の梯あり。これを上ぼりて、四階目に腰を折りて潜るべき程の戸あり。少女は鏽《さ》びたる針金の先きを捩《ね》ぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には...