山川 信一

古典

第五段 その二 ~恋と政治~

人しれぬわが通ひ路の関守はよひよひごとにうちも寝ななむとよめりければ、いといたう心やみけり。あるじ許してけり。  二条の后に忍びて参りけるを、世の聞えありければ、兄たちの守らせたまひけるとぞ。「とよめりければ」とある。これは、そう詠んであっ...
古典

第五段 その一 ~諦めない男~

昔、男ありけり。東の五条わたりに、いと忍びていきけり。みそかなる所なれば、かどよりもえ入らで、わらはべの踏みあけたるついひぢの崩れより通ひけり。人しげくもあらねど、たび重なりければ、あるじ聞きつけて、その通ひ路に、夜ごとに人をすゑて守らせけ...
古典

第四段 その二 ~身分違いの悲恋~

あり所は聞けど、人のいき通ふべき所にもあらざりければ、なほ憂しと思ひつつなむありける。またの年の正月に、梅の花ざかりに、去年を恋ひていきて、立ちて見、ゐて見、見れど、去年に似るべくもあらず。うち泣きて、あばらなる板敷に、月のかたぶくまでふせ...