山川 信一

古典

第八十七段 ~海辺の生活~

かへり来る道とほくて、うせにし宮内卿もちよしが家の前来るに、日暮れぬ。やどりの方を見やれば、あまのいさり火多く見ゆるに、かのあるじの男よむ。 晴るる夜の星か河べの蛍かもわがすむかたのあまのたく火かとよみて、家にかへり来ぬ。その夜、南の風吹き...
古典

第八十七段 ~その二 滝の歌~

さる滝のかみに、わらうだの大きさして、さしいでたる石あり。その石の上に走りかかる水は、小柑子、栗の大きさにてこぼれ落つ。そこなる人にみな滝の歌よます。かの衛府の督まづよむ、 わが世をば今日か明日かと待つかひの涙の滝といづれ高けむ あるじ、次...
古典

第八十七段 ~その一 物見遊山~

昔、男、津の国、菟原(うばら)の郡(こほり)、蘆屋の里にしるよしして、いきてすみけり。昔の歌に、 蘆の屋のなだのしほ焼きいとまなみつげの小櫛もささず来にけりとよみけるぞ、この里をよみける。ここをなむ蘆屋のなだとはいひける。 この男、なま宮づ...