山川 信一

古典

第九十三段 ~身分違いの恋~

昔、男、身はいやしくて、いとになき人を思ひかけたりけり。すこし頼みぬべきさまにやありけむ、ふして思ひ、おきて思ひ、思ひわびてよめる、 あふなあふな思ひはすべしなぞへなくたかきいやしき苦しかりけりむかしもかかることは、世のことわりにやありけむ...
古典

第九十二段 ~勇気が出ない男~

昔、恋しさに来つつかへれど、女に消息をだにえせでよめる、 あしべこぐ棚なし小(を)舟いくそたびゆきかへるらむしる人もなみ  昔、恋しさにたえかねて、女のところに来ては帰ることを繰り返すけれど、女に恋文を贈ることさえ(「だに」)できず詠んだ、...
古典

第九十一段 ~惜春~

昔、月日のゆくをさへ嘆く男、三月つごもりがたに、 をしめども春のかぎりの今日の日の夕暮にさへなりにけるかな  昔、女が逢ってくれない上にいたずらに月日が過ぎゆくことまでも(「さへ」)嘆く男が、春の終わりの三月の月末の頃に、〈惜しむけれども、...