山川 信一

古典

我をば努な棄て玉ひそ

又程経てのふみは頗る思ひせまりて書きたる如くなりき。文をば否といふ字にて起したり。否、君を思ふ心の深き底《そこひ》をば今ぞ知りぬる。君は故里《ふるさと》に頼もしき族《やから》なしとのたまへば、此地に善き世渡のたつきあらば、留り玉はぬことやは...
古典

第一の書の略なり

この間余はエリスを忘れざりき、否、彼は日毎に書《ふみ》を寄せしかばえ忘れざりき。余が立ちし日には、いつになく独りにて燈火に向はん事の心憂さに、知る人の許《もと》にて夜に入るまでもの語りし、疲るゝを待ちて家に還り、直ちにいねつ。次の朝《あした...
古典

魯国行につきては、何事をか叙すべき

魯国行につきては、何事をか叙すべき。わが舌人《ぜつじん》たる任務《つとめ》は忽地《たちまち》に余を拉《らつ》し去りて、青雲の上に堕《おと》したり。余が大臣の一行に随ひて、ペエテルブルクに在りし間に余を囲繞《ゐねう》せしは、巴里絶頂の驕奢《け...