山川 信一

古典

第百五十八段  故事問答

「盃のそこを捨つる事は、いかが心得たる」と、或人の尋ねさせ給ひしに、「凝当(ぎょうとう)と申し侍るは、そこに凝りたるを捨つるにや候ふらん」と申し侍りしかば、「さにはあらず。魚道(ぎょだう)なり。流れを残して、口のつきたる所をすすぐなり」とぞ...
古典

《浪と共に立つ秋》

秋たつ日、うへのをのこともかものかはらにかはせうえうしけるともにまかりてよめる  つらゆき) かはかせのすすしくもあるかうちよするなみとともにやあきはたつらむ (170) 川風の涼しくもあるか打ち寄する浪と共にや秋は立つらむ 「立秋の日、殿...
古典

第百五十七段   形から入れ

筆をとれば物書かれ、楽器をとれば音をたてんと思ふ。盃をとれば酒を思ひ、賽をとれば攤(だ)打たん事を思ふ。心は必ず事に触れて来たる。かりにも不善の戯れをなすべからず。  あからさまに聖教の一句を見れば、何となく前後の文も見ゆ。卒爾にして多年の...