雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。
今日は短い段落だ。春菜先輩はどう切り込んでくるかな?
「ここで情景描写が入るけど、その役割は何だろう?」
「ちょっとした息抜きみたいな役割かな?幕間みたいな・・・。事情の説明が続いているので、メリハリを付けたとか。」
「そうだね。じゃあ、その情景描写の特色で気づいたことはない?」
「「雨は、羅生門をつつんで」の包むという言い方が気になる。雨が包む?かなり変わった言い方だよね。」
「なぜこんな言い方をしたんだろう?」
「雨が羅生門を孤立させている感じを出したいんじゃない?外界から切り離された感じがする。」
「そうだね。他にはないかな?」
「そう思うと、「遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。」の集めるも気になる。なにか得体の知れないものを羅生門に集めてくる感じがする。」
「単なる息抜きじゃないんだね。」
「「夕闇は次第に空を低くして」も羅生門が闇に包まれて孤立していく感じがする。」
「「見上げると」ってあるけど、主語は何?」
「下人?それとも、語り手?」
「これは語り手でしょ。でも、下人に寄り添っているから同じことだね。その結果、読者も同じようにそれを見ている気になる。」
「他に気づくことは?」
「「門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。」の支えるも気になるな。雲がかかっている感じなんだけど、逆に羅生門が雲を吸い込んでいるようにも思える。音を集めてが利いているのかな。」
「夜になって世界に散っていた悪がここに戻ってきた感じがする。」
「ここに悪の世界が作られていくんだね。」
作者は、幕間も無駄にしていない。役割を果たしている。
コメント
叢雲のように、雲なら集まり包み込むイメージがありますが、雨がつつんで音を集めてくる、、羅生門一帯を雨のカーテンで外界から遮蔽して干渉を受けないように、夜の底は垂れ込めてきて息苦しい圧迫感を感じます。さらに羅生門の屋根に雲の蓋が被さる。もう逃れようがありません。映画の本編が始まる前の照明の落とされる瞬間の雰囲気にも似ています。「雨の音を聞くともなく聞いていた」下人。門の中の雨の「音」=「闇」は下人を離さない。ベールの向こうに下人の声は届かないし、外から内側で起こる事も包み隠され誰の手も及ばない。語り手と読み手はこれから起こるベールの中の出来事を手足の出ぬまま見届けなくてはならない。読み手も物語にすっかり取り込まれてしまっています。
いよいよ事件の舞台は整ってきました。ここに外界から切り離された別世界が作られました。
いやが上にも、期待が募ります。この外界から閉ざされた世界で一体何が起こるのでしょうか?
読者は語り手とともに下人をじっと見つめています。
羅生門が天空の城みたいになってしまったイメージを持ちました。
これから怖いことが起こりそうです。
ゾクゾクします。
自分なりの想像の世界を広げながら読んでいますね。これはとてもいい態度です。
なぜかと言えば、それまでの経験とこの作品の言葉がネットワークを築いていくからです。
しかも、らんさんには作品ののめり込んでいくほどの感性がありますね。これは得がたいものです。
心が純粋なのでしょう。羨ましいほどです。