《舞姫への賞讃》

五節のまひひめを見てよめる よしみねのむねさた

あまつかせくものかよひちふきとちよをとめのすかたしはしととめむ (872)

天つ風雲の通ひ路吹き閉じよ乙女の姿しばし留めむ

「五節の舞姫を見て詠んだ 良峯宗貞
天の風よ、雲の通い路を吹き閉じろ。乙女の姿をしばらく留めたらどうだ。」

「(天)つ(風)」は、格助詞で連体修飾語を作る。「(留め)む」は、助動詞「む」の終止形で婉曲な命令を表す。
五節を祝う舞姫の何と神々しいことか。それは舞姫が天から舞い降りた天女に違いない。だから、舞い終われば再び天に帰ってしまう。何とも惜しいなあ。もう少しこの美しい天女たちを見ていたい。天の風よ、舞姫が帰る天への雲の通い路を閉ざしてしばらくの間天女たちをここに留めてくれないか。
作者は、舞姫の美しさを天女と思えるほどだと讃えている。
この歌は、前の歌と「賞讃」繋がりである。作者は美しい舞姫に感動し、それを賞讃している。ただし、それをそのまま表さず、「天つ風雲の通ひ路吹き閉じよ」と命じている。そして、命じる理由が下の句でわかる仕掛になっている。何かを褒めるのは結構難しい。その点、この歌は誇張表現を用いたスマートな構成により成功している。なぜなら、嫌味にならず読み手の想像力を十分に掻きたてるからである。編集者は、その表現効果を評価したのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    「乙女の姿」については一切描かれていないし「天女」とも記されていないのに、冒頭で強い印象を受ける「天つ風」は雲を動かすだけでなく、天から地上に届いて舞姫たちの纏う衣装の袖をふわりと膨らませ花開かせる。色鮮やかなビジョンが目の前に広がります。彼女たちを天女と見立て、帰り道を隠して留めるよう、天に向かって命じる。最上の褒め言葉ですね。

    • 山川 信一 より:

      その時、多少の風があったのでしょう。その風が姫たちの衣裳を揺らす。舞姫たちは、その風を受けながら優雅に舞う。まるで天上の舞いのように。その光景さえも見えてきます。舞姫の美しい舞いを讃える言葉として、これ以上のものは無いとさえ思えますね。この歌を贈られた舞姫たちの喜びはいかばかりでしょう。

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