《郭公に託けた皮肉》

題しらす よみ人しらす

たかさとによかれをしてかほとときすたたここにしもねたるこゑする (710)

誰が里に夜離れをしてか郭公ただここにしも寝たる声する

「題知らず 詠み人知らず
誰の里に訪れないで郭公がただここにばかり寝ているような声がするのか。」

「(して)か」は、係助詞で詠嘆を伴った疑問を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「(ここに)しも」は、副助詞で強調を表す。「(寝)たる」は、存続の助動詞「たり」の連体形。「(声)する」は、サ変動詞「す」の連体形。
郭公が他の里に行かないでいつもここにいるかのように珍しく近くで鳴いています。まるで、あなたのようですね。今夜は、どうして、いつも通っている他の女の元に行くのを止めて、ただ私の所でばかり寝ているような言い方をなさるのですか。
作者は、稀にしか訪れない男に、たまたま近くで鳴いた郭公に託けて皮肉を言っている。郭公の習性を巧みに生かしている。
この歌は、浮気性の郭公への恨み言として読める。しかし、「恋四」のこの位置に置かれることで、男への恨み言に取れる。歌は、状況によって伝えたい意味が変わってくる。この歌は、その性質をよく伝えている。ただし、この歌は、単なる自然詠ではないことを「寝たる(声する)」で示している。編集者はこうした周到さを評価したのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    「あら、珍しく郭公が庭まで来て鳴きましてよ、、まぁ、折角久しぶりにいらしたというのに、高鼾ですか。何処ぞへ行くのがお忙しくてお疲れなのかしら、憎らしい事!お鼻をつまんで、、」
    「っっは!あぁ、何やら息が詰まった」
    「あら、良い時にお目覚めで。あなたがいらしたからでしょうか、滅多に我が家には来ない郭公の良い声が聞こえます」
    誰が里に夜離れをしてか郭公ただここにしも寝たる声する

    • 山川 信一 より:

      歌の背景が見えてきました。生き生きとした鑑賞ですね。「寝たる声」は、郭公が寝ながら鳴くことはないから、作者のことを言っていると解せますね。

  2. まりりん より:

    久しぶりの訪れなのに、情熱的な素振りを見せるでもなく只呑気に寝てばかり。。
    本当は、本命の別の女性の元に行こうとしたのかも。でも何かの事情で叶わなかった。仕方が無いからこっちに来た? 何と失礼なこと! 追い出したいけど憎めない、相手を愛おしく思う様子が浮かびます。

    • 山川 信一 より:

      「ただここにしも寝たる」は、「只呑気に寝てばかり」という意味ではありません。「ただ私の所でばかり寝ているような言い方をする」という意味です。事実と違うことを言う男が憎らしいのです。
      でも、「追い出したいけど憎めない」のは、まさにその通りです。

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