けにこし 矢田部の名実(なざね)
うちつけにこしとやはなのいろをみむおくしらつゆのそむるはかりを (444)
うちつけに濃しとや花の色を見む置く白露の染むるばかりを
「にわかに濃いと花の色を見ようか。置く白露が染めているだけだよ。」
「うちつけに」は、形容動詞の連用形。「けに」に「げに」という副詞が掛かっている。「(濃し)とや」の「と」は、格助詞で引用を表す。「や」は、係助詞で反語を表し係り結びとして文末を連体形にする。「(見)む」は、推量の助動詞「む」の連体形。ここで切れる。「ばかりを」の「ばかり」は、副助詞で限定の意を表す。「を」は、間投助詞で詠嘆を表す。
今朝は殊の他、花の色が濃く見える。この花の名を「けにごし」と思うまま直ぐに「げにこし(本当に濃い)」と花の色を見るのだろうか、そんなことはあるまい。置いた白露が花の色を染めただけのことだよ。
人がこの花の色が実に濃いと思うのは、花の名前によるものではなく、花の色も葉と同様に朝露が染めたからなのだ。つまり、物事は、名前より事実に基づいて考えるべきだと言うのだ。この花が咲く様子を踏まえて詠んでいる。凝った表現の歌である。まさに物名にふさわしい歌である。
「けにごし」は、牽午子(けんごし)が変化したもの。現在の名前は何だろう。同様に四文字である。
コメント
けにこし?「牽牛子」の漢字を見て分かりました。漢方薬とかに種が調合されますね「朝顔」。そのものの魅力があってこその「名」。白露が染めている?白露が触媒となり見るものそれぞれの心を映して彩り豊かに咲くのでしょうか。
楽しげに五色に咲みて並び居る行燈仕立て夕市の声
正解です。考えてみれば、白露が染めるのは、事実ではありませんね。それでも、矢田部の名実は自らの名に引っかけて理屈を言ってみたのでしょう。むしろ人は名前により多く反応するものです。
「楽しげに五色に咲みて並び居る行燈仕立て夕市の声」は見事です。「朝顔」と言わず、朝顔を思わせます。朝顔は、普通朝市がふさわしいけれど、敢えて「朝」を避け、「夕市」にするところまで気を配っています。*異に濃しも薄きぼかしも交配は名前をつける楽しみもあり 朝顔は多品種ですね。色々な名前があります。
「けにごし」の現在の名前。 4文字で、色の濃い花? コスモス、撫子、朝顔、、
わかりません。。
淡色だった花の色が朝露によって濃く染めたれた。色素と同時に命も吹き込まれ、より鮮やかに生き生きと咲いている様が想像できます。
朝顔が正解でした。蕾と開花の落差が大きい。その印象を詠んだのでしょうか。「色素と同時に命も吹き込まれ、より鮮やかに生き生きと咲いている様が想像できます。」はいい鑑賞ですね。まりりんさんも、朝顔のイメージで読んでいますね。