第六十五段 冠にも流行あり

 この比の冠(かぶり)は、昔よりはるかに高くなりたるなり。古代の冠桶(かぶりをけ)を持ちたる人は、はたを継ぎて、今用ゐるなり。

「近頃の冠は、昔より遥かに高くなっているのだ。古い時代の冠入れを持っている人は、端を継ぎ足して、今用いているのだ。」

習俗の流行りを言う。衣冠束帯の冠のような正装でさえ、流行りがあるのだと。
なるほど、人が変化を好む今も変わらない。たとえば、中高生は制服を崩して着ようとする。女子はスカートの丈に変化をつけたがる。男子はズボンの太さを変えたことがある。社会人男子は、背広の色やネクタイの太さを変えたりする。社会人女子は、眉の太さや口紅の色をを変えたりする。
グループの一員でいるという安心感を確保しつつ、その中で少しだけ目立ちたいからだろうか。
では、兼好はなぜこんなことを書いたのだろう。自分がこんな細やかなところにも目を配っているとアピールするためだろうか。

コメント

  1. すいわ より:

    装束の流行、という視点で書かれているけれど、本体が変わるとそれに合わせて外側も変える必要がある、ということですよね。一つの要素が変わるとそれに影響を受けて変わらざるを得ない。例えばその時世に合わせて本来の自分を変えざるを得ない、とか。古いままでは使い物にならない、アップデートしていかないと、ということなのか。たかが冠の事を言っているけれど、色々考えさせられてしまいます。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、箱に注目したのですね。その観点には気づきませんでした。本体が変わると、それに付随するものも変わる。アップデートが必要になる。
      ただ、兼好がそれで言いたいことの本体がよくわかりません。あまりにも応用範囲が広すぎて。

      • すいわ より:

        高くなった冠より、それに合わせて今までのものに「継ぎ足して」冠桶を使用している様子の方が印象的でした。冠を被るくらいだから暮らしに困っているわけではなさそう。新しい冠を作るのならそれに合わせて冠桶も替えそうなものを継ぎ足す所に違和感を覚えました。「古き良きもの」好きですものね、兼好。彼の事だから、何か含みがあるのでしょうけれど、これだけでは何が言いたいのかは分かりませんね。

        • 山川 信一 より:

          さすがの兼好も冠の変化を実際に見てきた訳ではないでしょう。しかし、冠桶が継ぎ足してあるのを見て、冠が高くなっている事に気が付いた。「なるほどそういうことか」と。
          その発見を得意げに記したのではないでしょうか。古いものを大切にする者も流行には勝てません。

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