雪の付いた枝

題しらす   よみ人しらす

こころさしふかくそめてしをりけれはきえあへぬゆきのはなとみゆらむ (7)

こころざし深く染めてし折りければ消え敢へぬ雪の花と見ゆらむ

こころざし:注意を集中させること。気を配る心。
そめて:心に染み付けて。
(そめて)し:強意の副助詞。
きえあへぬゆきの:消えることができずに残っている雪が。「の」は主語を表し、「みゆらむ」に掛かる。
みゆらむ:「見えているのだろう。」眼前に見えている状況の原因理由を推量している。

「誰かが殊更注意深く丁寧に枝を折ったので、枝に消えることができずに残っている雪が私には花と見えているのだろう。」

「折りければ」と「けれ(けり)」を使っているので、誰かが折って瓶にでも挿しておいたのである。「けり」は、自分では直接経験していないけれど、それが事実であると確信していることを表す助動詞。「こころざし深く染めてし」は、その行為の慎重さを強調した表現。雪が落ちないようにすごく気を配って折ってくれた。そのお陰で、枝に雪が残っていて、その雪が花のように見えると言うのである。見えるのは、そう思いたいからである。
この歌は、枝を注意深く折ってくれた人への感謝と春の訪れを願う思いを表している。

コメント

  1. すいわ より:

    六花を花と見る。枝に文は結ばれていない。この儚い花を注意深く手折って、消えてしまわない絶妙なタイミングで歌を詠んだ人の手元に届ける人。こんなことする人はあの人だけ、と贈られた人は心にも花咲いてしまうでしょうね。

    • 山川 信一 より:

      枝を折って贈ってくれた人と、花と見る人が違うことを「けり」が表しています。和歌は一語も忽せに出来ません。
      贈られた喜びをこんな風に表現したのですね。贈った人もこの歌を読めば喜んでくれるでしょう。
      和歌は基本的に相聞ですから。

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