《荒れた心》

題しらす  伊勢

ふるさとにあらぬものからわかためにひとのこころのあれてみゆらむ (741)

故里にあらぬものから我がために人の心の荒れて見ゆらむ

「題知らず 伊勢
故里ではないのに、私のためになぜ人の心が荒れて見えているのだろう。」

「(あら)ぬものから」の「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「ものから」は、接続助詞で逆接を表す。「(見ゆ)らむ」は、現在推量の助動詞の連体形で原因理由の推量を表す。
故里は訪れなくなれば荒れるものです。それに伴い、人の心も荒れることになります。私は故里はないのに、どうして私のためにあなたの心が荒れて見えているのでしょうか。あなたにとって、私はもはや故里(住まなくなった土地)なのですか。
通ってこなくなった男に対しての恨み言である。
これも、前の歌に続いて捨てられたおんなの嘆きである。作者には、相手の男の心が荒れて見えている。そこで、その理由を自分が故里になったからかと推量する。故里は荒れるものだというイメージを生かしている。そして、それを表すのに「ものから」と「らむ」による歌の構成がしっかりしている。編集者はそれらを評価したのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    この歌、意味が取りづらいです、、。

    私には貴方の心がわりは枯れて(離れて)荒れ果てた故里のように見えます。貴方にとって私がもう過去の女だからなのかしら?でもそれは私のせいじゃない。だって私は故郷じゃないもの、、。こんな感じでしょうか?

    • 山川 信一 より:

      作者は、自分を故里(住まなくなった土地)のような存在だと言います。まさにその通りです。言い得ていますね。けれども、そうは思いたくもないのでしょう。男にとって「ふるさとは遠きにありて思うもの」なのですね。しかし、恋心としてみれば、荒れています。

  2. まりりん より:

    私から離れた貴方の心が荒れて見える。私は貴方の故郷でしたか? それ故に、私の処に住まなくなった貴方が荒れたのか?
    恨み言を言いながら、遠くに居てもいつも自分を思っていて下さい。いつでも私の元に帰って来て良いのです、と、捨てられても尚、慕う気持ちを感じます。切ない歌です。。

    • 山川 信一 より:

      結局男心を動かすのは、こうしたせつないまでの思いかも知れませんね。

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