《終わらない恋》

題しらす よみ人しらす

おもふよりいかにせよとかあきかせになひくあさちのいろことになる (725)

思ふよりいかにせよとか秋風に靡く浅茅の色異になる

「題知らず 詠み人知らず
思うよりどうしろと秋風に靡く浅茅の色が変わるのか。」

「(思ふ)より」は、格助詞で比較を表す。「(せよ)とか」の「と」は、格助詞で引用を表す。「か」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「秋風に靡く」は、「浅茅」を導く序詞。「(異に)なる」は、四段動詞「なる」の連体形。
私はあなたのことを今でも思っています。その他にどうしろと言って、風に靡いている丈の短い茅の色のように、あなたの様子がこれまでと変わってくるのでしょうか。この恋は終わりました。もう松の緑のように変わらない心で思い出せばいいと思います。
この歌も722番から続く歌の流れに位置付けることができる。女が723番で「紅の初花染め」を出してくる。これで、勝負が付いたかと思いきや、男は同じ染め物の「陸奥の信夫綟摺り」で返す。歌の出来から言えば、更に上を行く。それに対して、女は更にこの歌を返す。過去の恋にこだわる男の心を「秋風に靡く浅茅」と非難する。やりとりはまだまだ続きます。恋には様々な過程がある。それぞれの場面にそれぞれの味わいがある。編集者は、この歌がこうした恋の過程に於ける一場面を細やかに再現したことを評価したのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    貴方との事は私の中で美しいものとして心に抱いております。別れた今となってはその思いを大切にする他どうしろというのです?変わったのは貴方の方ですよね、私に飽きて何処ぞへ浮気されて。あの浅茅が秋を迎えて色の変わるように私への心も浅くなられたのでは?
    こんな感じでしょうか?もはや恋そのものより歌合せ。このラリー、どう勝負がつくのか。大人の恋愛、知の遊戯。恋愛を経て友愛となって行きそうです。

    • 山川 信一 より:

      同感です。関心は、恋の内実よりも歌の贈答そのものに移っているようです。その勝負にこだわっているのか、そのやり取りを楽しんでいるのか。いずれにしても、これも恋の味わいなのでしょうね。

  2. まりりん より:

    そう来たか、ではこう返そう! 歌の応酬ですね。最早、意地の張り合いのようにも思えてしまいます。どちらも、負けられません。。

    • 山川 信一 より:

      言い返そうとすれば、いくらでも言えるものです。きりがありませんね。後は気力(体力?)の問題です。

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