《人恋しき季節》

題しらす よみ人しらす

あきかせのふきにしひよりひさかたのあまのかはらにたたぬひはなし (173)

秋風の吹きにし日より久方の天の河原に立たぬ日は無し

「秋風が吹いた日から天の河原に立たない日は無い。」

「吹きにし」の「に」は、始まりを表す完了の助動詞「ぬ」の連用形。「し」は、過去の経験を表す助動詞「き」の連体形。「久方の」は、「天」に掛かる枕詞。
秋風が吹き始めた立秋の日から私は彦星様が訪れてくれるのを待ち望んで天の河原に立たない日はありません。あなたとお逢いできる一年に一度の日が近づいているのですから。
織女になったつもりで詠んでいる。織女にとって秋の訪れは、恋の訪れでもある。恋と秋とが一つになって感じられる。それによって、秋が誰にとっても人恋しくなる季節であることを言う。春に始まった恋心は、暑い夏には影を潜めて、爽やかな秋風に伴って再び心に帰って来る。

コメント

  1. すいわ より:

    その日を指折り数えて心待ちにする姿が目に浮かびます。その日でないのだから彼の人が来ているはずがない、それでも自ら約束の場に近付く事で一分一秒でも早く出会えるのではないかと言う気持ち。「秋」を待つ思いが誰もが経験するであろう恋心を描く事で共感され易くなっています。川風の爽やかな心地よさが歌を味わう側にも吹き込んでくるようです。

    • 山川 信一 より:

      いい鑑賞ですね。恋を誰でもが知っている七夕伝説に結びつけていますね。これこそ究極の恋の姿を表していますから。

  2. らん より:

    確かに秋は寂しくて人恋しくなる季節です。粋な歌ですねー。

    • 山川 信一 より:

      秋への思いは恋人への思いに通じます。言われてみれば、なるほどと思いますが、その発見が詩なのでしょう。

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