第百四十七段     流行より不易

 灸治、あまた所になりぬれば、神事に穢れありといふ事、近く人の言ひ出せるなり。格式等にも見えずとぞ。

灸治:灸をすえて着ずや病気を治すこと。
格式:「格」も「式」も律令を補うために時に応じて制定される法令。

「灸をすえる所が沢山になってしまうと、神事に汚れがあるということは、近頃になって人が言い出したことである。格式などにも見当たらないということだ。」

迷信を有職故事によって戒めている。有職故実には、歴史がある。流行より不易の方が当てになると言いたいのだ。兼好自身、灸のお世話になっていたのだろう。だから、簡単に否定されたくなかったに違いない。

コメント

  1. すいわ より:

    自分が灸を愛用していてこういった効能があるのだから、という言い方をすれば良いのに、有職故実を裏付けにするのですね。「灸治あまた所になりぬれば、神事に穢れあり」、繁盛していたのですね。そうなると面白くない人もいるのでしょう。そして根拠のない噂が広がる。兼好は自分はあくまでも治療しているけれど、世の流行に自分も手を出しているとは思われたくなかったのか、まわりくどい弁護をしていますね。

    • 山川 信一 より:

      英語にも「女をくさす男の多くは、ある特定の女をけなしているにすぎない。」という言葉があります。洋と東西を問わず、自分の都合は一般化したがるもののようです。有職故実を持ち出す辺りが兼好らしい。

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