寛平御時きさいの宮の歌合のうた よみ人しらす
うめかかをそてにうつしてととめてははるはすくともかたみならまし (46)
梅が香を袖に移して留めてば春は過ぐとも形見ならまし
(とどめ)て:「て」は、意志的完了の助動詞「つ」の未然形。
まし:反実仮想の助動詞。「もし・・・なら・・・だろう」
「梅の香りをもし袖に移して留めたならば、春が過ぎても春の形見となるだろう。」
惜春の思いという言葉があるように、春を惜しむ気持ちは強い。もちろん、どんなに惜しんでも、春を留めることはできない。しかし、梅の香を袖に移して置きさえすれば、春は行っても、春を身近に留めておくことができると言うのだ。
梅の花の魅力をこんな面から語っている。
コメント
袖の袂は様々な思いを受け止めますね。実際香りが残るかと言えば残るはずはない、それでも形の無いものを形見として身に近いものに移そうとする春に対する強い思いが感じられます。袖を頬に当てて春を思う姿が思い浮かびます。
対象への強い愛情をあり得ない設定で詠むのが『古今和歌集』の歌風ですね。
見慣れた情景をいつもと違ってみせることを「異化」と言いますが、これが『古今和歌集』の異化の方法です。