題しらす 在原行平朝臣
はるのきるかすみのころもぬきをうすみやまかせにこそみたるへらなれ (23)
春の着る霞の衣貫きを薄み山風にこそ乱るべらなれ
春の着る霞:春が着ている霞。春を擬人化している。
貫きを薄み:名詞+「を」+形容詞の語幹+「み」は、「・・・が・・・ので」の意だと言われている。しかし、「・・・を・・・の状態にして」と解することもできる。形容詞の語幹+「み」を形容詞の動詞化と見るのである。「貫き」は横糸。
べらなれ:状態の推量を表す。・・・に違いない。・・・の様子だ。・・・しそうだ。
「春という季節が着ている霞の衣は、横糸が薄いので(横糸を薄い状態にして)山風に乱れそうだが・・・」
春の景色に霞が掛かる様子を詠んでいる。春は、霞が掛かり、空や遠景がぼんやりすることがある。それを春が霞の衣を身につけていると見る。その様子は、まだ冷たい山風が吹けば乱れてしまいそうなほど頼りなく儚くに見えると言うのである。
春を女性に見立てているようだ。逆に、女性の儚げな美しさをたたえる歌としても使えそうだ。
コメント
春になり綿を抜いて軽くなった衣かと思いましたが、霞となれば透けるような薄さの風にはためく薄物ですね。まるで天女の羽衣。山風に晒されたら忽ち形を失ってしまいそうな生まれたての春、儚く移ろう様子から目を離せないのでしょう。
春を擬人化することで、春が透き通る衣を纏う女性に見えてきます。まさに天女の羽衣のイメージですね。