《小さな変化を喜びに変える》

寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた   源まさすみ

たにかせにとくるこほりのひまことにうちいつるなみやはるのはつはな (12)

谷風に溶くる氷の隙毎に打ち出づる浪や春の初花

寛平御時:宇多天皇の御代。八八九年~八九八年。
きさいの宮:皇后温子。摂政藤原基経の娘。
うたあはせのうた:歌合の歌であるから、選りすぐりの歌であることがわかる。以下、三首続く。

「寛平御時后の宮の歌合の歌   源当純
谷を吹く春の暖かな風に溶ける氷のすき間ごとに湧き出て来る白波が春の初花だろうか」

暦の上では春になった。しかし、山の中では一見それらしい風情が見えない。それでも、谷を吹く風は確かに暖かくなっている。その証拠に谷川に張った氷が溶け始めているではないか。氷が溶けて、所々に隙間が見える。その隙間ごとに、水が白波となってひょいと湧き出している。その白波が春に咲く最初の花のように思える。今まさに、春が氷の中から生まれているのだ。そんな、季節の小さな変化も見逃さず、喜びに変えようとする心を表している。

コメント

  1. すいわ より:

    氷があるのだから辺りはまだ雪に閉ざされているのかもしれません。まだ春の景色とは程遠い、でも、そこに谷を渡る風が暖かさを運んで来る。溶かされた氷の隙間からほこほこと「打ち出づる」水の湧き出る様は、勢いよく土から芽を出す草木を思わせます。小さな小さな春も見逃さないのですね。

    • 山川 信一 より:

      春を待ち望む思いが捉えた小さな小さな春でした。そこには、詩的発見があります。言われてみれば「そうか、あれが春の初花なんだな!」と共感できます。これが貫之が考える詩なのですね。

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