2019-07

古典

第六十段 ~逃げた妻~

昔、男ありけり。宮仕へいそがしく、心もまめならざりけるほどの家刀自、まめに思はむといふ人につきて、人の国へいにけり。この男、宇佐の使にていきけるに、ある国の祇承(しぞう)の官人の妻にてなむあると聞きて、「女あるじにかはらけとらせよ。さらずは...
古典

第五十九段 ~恋と生死~

昔、男、京をいかが思ひけむ、東山にすまむと思ひ入りて、 すみわびぬいまはかぎりと山里に身をかくすべき宿もとめてむ かくて、ものいたく病みて、死に入りたりければ、おもてに水そそぎなどして、いきいでて、 わが上に露ぞ置くなる天の河とわたる船のか...
古典

第五十八段 ~田舎の女たち~

昔、心つきて色好みなる男、長岡といふ所に家つくりてをりけり。そこのとなりなりける宮腹に、こともなき女どもの、ゐなかなりければ、田刈らむとてこの男のあるを見て、「いみじのすき者のしわざや」とて、集りて入り来ければ、この男、逃げて奥にかくれにけ...