古典

第九段 その四

富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白うふれり。 時しらぬ山は富士の嶺いつとてか鹿子まだらに雪のふるらむその山は、ここにたとへば、比叡の山を二十(はたち)ばかり重ねあげたらむほどして、なりは塩尻のやうになむありける。 なほゆきゆきて、...
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第九段 その三

ゆきゆきて駿河の国にいたりぬ。宇津の山にいたりて、わが入らむとする道はいと暗う細きに、蔦かへでは茂り、もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者あひたり。「かかる道は、いかでかいまする」といふを見れば、見し人なりけり。京に、その人の...
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第九段 その二

その沢のほとりの木のかげにおりゐて、かれいひ食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばた、といふ五文字を句のかみにすゑて、旅の心をよめ」といひければ、よめる。  唐衣きつつなれにしつましあれば...