古典

第八十二段 ~その一 桜と恋~

昔、惟喬の親王と申すみこおはしましけり。山崎のあなたに、水無瀬といふ所に、宮ありけり。年ごとの桜の花ざかりには、その宮へなむおはしましける。その時、右の馬の頭なりける人を、常に率ておはしましけり。時世経て久しくなりにければ、その人の名を忘れ...
古典

第八十一段 ~遠い記憶~

昔、左のおほいまうちぎみいまそがりけり。賀茂河のほとりに、六条わたりに、家をいとおもしろく造りて、すみたまひけり。十月のつごもりがた、菊の花うつろひさかりなるに、もみぢのちぐさに見ゆるをり、親王たちおはしまさせて、夜ひと夜、酒飲みし遊びて、...
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第八十段 ~在原家と藤原家~

昔、おとろえたる家に、藤の花植ゑたる人ありけり。三月のつごもりに、その日、雨そほふるに、人のもとへ折りて奉らすとてよめる、 ぬれつつぞしひて折りつる年のうちに春はいく日もあらじと思へば  昔、衰えた家に、藤の花を植えていた人がいた。三月の月...