古典

第八十六段 ~若い日の恋~

昔、いと若き男、若き女をあひいへりけり。おのおの親ありければ、つつみて、いひさしてやみにけり。年ごろ経て、女のもとに、なほ心ざし果たさむとや思ひけむ、男、歌をよみてやれりけり。  いままでに忘れぬ人は世にもあらじおのがさまざま年の経ぬれば ...
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第八十五段 ~思いは積もる雪~

昔、男ありけり。わらはより仕うまつりける君、御ぐしおろしたまうてけり。正月にはかならずまうでけり。おほやけの宮仕へしければ、つねにはえまうでず。されど、もとの心うしなはでまうでけるになむありける。むかし仕うまつりし人、俗なる、禅師なる、あま...
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第八十四段 ~母への思い~

昔、男ありけり。身はいやしながら、母なむ宮なりける。その母、長岡といふ所にすみたまひけり。子は京に宮仕へしければ、まうづとしけれど、しばしばえまうでず。ひとつ子にさへありければ、いとかなしうしたまひけり。さるに、十二月ばかりに、とみのことと...