古典

第六十九段 ~その三 別れ~

野に歩けど、心はそらにて、今宵だに人しづめて、いととくあはむと思ふに、国の守、斎宮の頭(かみ)かけたる、狩の使ありと聞きて、夜ひと夜、酒飲みしければ、もはらあひごともえせで、明けば尾張の国へたちなむとすれば、男も人しれず血の涙を流せど、えあ...
古典

第六十九段 ~その二 女の大胆な行動~

つかひざねとある人なれば、遠くも宿さず、女のねや近くありければ、女、人をしづめて、子一つばかりに、男のもとに来たりけり。男はた、寝られざりければ、外の方を見いだしてふせるに、月のおぼろなるに、小さき童をさきに立てて人立てり。男いとうれしくて...
古典

第六十九段 ~その一 伊勢の斎宮~

昔、男ありけり。その男、伊勢の国に狩の使ひにいきけるに、かの伊勢の斎宮(いつきのみや)なりける人の親、「つねの使よりは、この人よくいたはれ」といひやれりければ、親の言なりければ、いとねむごろにいたはりけり。あしたには狩にいだしたててやり、ゆ...