古典

鴉と面皰

その代りまた鴉がどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾のまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の...
古典

人心の荒廃

何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云う災いがつづいて起った。そこで洛中のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の...
古典

この男のほかに誰もいない

広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗りの剥げた、大きな円柱に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。それ...