古典

李徴の悲劇

叢の中からは、暫《しばら》く返辞が無かった。しのび泣きかと思われる微《かす》かな声が時々|洩《も》れるばかりである。ややあって、低い声が答えた。「如何にも自分は隴西の李徴である」と。 袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懐《なつ》かし...
古典

虎となった李徴登場

翌年、監察御史《かんさつぎょし》、陳郡《ちんぐん》の袁傪《えんさん》という者、勅命を奉じて嶺南《れいなん》に使《つかい》し、途《みち》に商於《しょうお》の地に宿った。次の朝|未《ま》だ暗い中《うち》に出発しようとしたところ、駅吏が言うことに...
古典

李徴の蹉跌

数年の後、貧窮に堪えず、妻子の衣食のために遂(つい)に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになった。一方、これは、己(おのれ)の詩業に半ば絶望したためでもある。曾ての同輩は既に遥か高位に進み、彼が昔、鈍物として歯牙(しが)に...