古典

我を救ひ玉へ、君。

彼は驚きてわが黄なる面を打守りしが、我が真率なる心や色に形《あら》はれたりけん。「君は善き人なりと見ゆ。彼の如く酷《むご》くはあらじ。又《ま》た我母の如く。」暫し涸れたる涙の泉は又溢れて愛らしき頬《ほ》を流れ落つ。「我を救ひ玉へ、君。わが恥...
古典

わが大胆なるに呆れたり

彼は料《はか》らぬ深き歎きに遭《あ》ひて、前後を顧みる遑《いとま》なく、こゝに立ちて泣くにや。わが臆病なる心は憐憫《れんびん》の情に打ち勝たれて、余は覚えず側《そば》に倚り、「何故に泣き玉ふか。ところに繋累《けいるゐ》なき外人《よそびと》は...
古典

余に詩人の筆なければ・・・

今この処を過ぎんとするとき、鎖《とざ》したる寺門の扉に倚りて、声を呑みつゝ泣くひとりの少女《をとめ》あるを見たり。年は十六七なるべし。被《かむ》りし巾《きれ》を洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に...