古典

遂に離れ難き中となりし

嗚呼、委《くはし》くこゝに写さんも要なけれど、余が彼を愛《め》づる心の俄《にはか》に強くなりて、遂に離れ難き中となりしは此折なりき。我身の大事は前に横《よこたは》りて、洵《まこと》に危急存亡の秋《とき》なるに、この行《おこなひ》ありしをあや...
古典

師弟の交りを生じたる

余とエリスとの交際は、この時までは余所目《よそめ》に見るより清白なりき。彼は父の貧きがために、充分なる教育を受けず、十五の時舞の師のつのりに応じて、この恥づかしき業《わざ》を教へられ、「クルズス」果てゝ後、「ヰクトリア」座に出でゝ、今は場中...
古典

我がまたなく慕ふ母の死

その名を斥《さ》さんは憚《はゞかり》あれど、同郷人の中に事を好む人ありて、余が屡ゞ《しば/\》芝居に出入して、女優と交るといふことを、官長の許《もと》に報じつ。さらぬだに余が頗《すこぶ》る学問の岐路《きろ》に走るを知りて憎み思ひし官長は、遂...