古典

明治廿一年の冬は来にけり

明治廿一年の冬は来にけり。表街《おもてまち》の人道にてこそ沙《すな》をも蒔《ま》け、鍤《すき》をも揮へ、クロステル街のあたりは凸凹《とつあふ》坎坷《かんか》の処は見ゆめれど、表のみは一面に氷りて、朝に戸を開けば飢ゑ凍《こゞ》えし雀の落ちて死...
古典

民間学の流布

我学問は荒みぬ。されど余は別に一種の見識を長じき。そをいかにといふに、凡《およ》そ民間学の流布《るふ》したることは、欧洲諸国の間にて独逸に若《し》くはなからん。幾百種の新聞雑誌に散見する議論には頗《すこぶ》る高尚なるもの多きを、余は通信員と...
古典

我学問は荒みぬ

我学問は荒《すさ》みぬ。屋根裏の一燈微に燃えて、エリスが劇場よりかへりて、椅《いす》に寄りて縫ものなどする側の机にて、余は新聞の原稿を書けり。昔しの法令条目の枯葉を紙上に掻寄《かきよ》せしとは殊にて、今は活溌々たる政界の運動、文学美術に係る...