古典

乱れし髪を朔風に吹かせて

「何、富貴。」余は微笑しつ。「政治社会などに出でんの望みは絶ちしより幾年《いくとせ》をか経ぬるを。大臣は見たくもなし。唯年久しく別れたりし友にこそ逢ひには行け。」エリスが母の呼びし一等「ドロシユケ」は、輪下にきしる雪道を窻の下まで来ぬ。余は...
古典

われをば見棄て玉はじ

かはゆき独り子を出し遣る母もかくは心を用ゐじ。大臣にまみえもやせんと思へばならん、エリスは病をつとめて起ち、上襦袢《うはじゆばん》も極めて白きを撰び、丁寧にしまひ置きし「ゲエロツク」といふ二列ぼたんの服を出して着せ、襟飾りさへ余が為めに手づ...
古典

故郷よりの文なりや

今朝は日曜なれば家に在れど、心は楽しからず。エリスは床に臥《ふ》すほどにはあらねど、小《ちさ》き鉄炉の畔《ほとり》に椅子さし寄せて言葉寡《すくな》し。この時戸口に人の声して、程なく庖厨《はうちゆう》にありしエリスが母は、郵便の書状を持て来て...