古典

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第七十六段 ~昔の恋を偲ぶ~

昔、二条の后の、まだ春宮の御息所と申しける時、氏神にまうでたまひけるに、近衛府(このゑづかさ)にさぶらひけるおきな、人人の禄たまはるついでに、御車よりたまはりて、よみて奉りける、 大原や小塩の山も今日こそは神代のこともおもひいづらめとて、心...
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第七十五段 ~口説きあぐねる~

昔、男、「伊勢の国に率(ゐ)ていきてあらむ」といひければ、女、 大淀の浜に生ふてふみるからに心はなぎぬかたらはねどもといひて、ましてつれなかりければ、男、 袖ぬれてあまの刈りほすわたつうみのみるをあふにてやまむとやする女、 岩間より生ふるみ...
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第七十四段 ~恋は駆け引き~

昔、男、女をいたう恨みて、 岩根ふみ重なる山にあらねどもあはぬ日おほく恋ひわたるかな  昔、男が女をひどく恨んで、〈あなたの心は、根が生えたように動かない大きな岩(「岩根」)が踏み重なる山ではないけれど、あなたがつれなくて逢えない日が多く、...