古典

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余に詩人の筆なければ・・・

今この処を過ぎんとするとき、鎖《とざ》したる寺門の扉に倚りて、声を呑みつゝ泣くひとりの少女《をとめ》あるを見たり。年は十六七なるべし。被《かむ》りし巾《きれ》を洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に...
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クロステル巷 心の恍惚

或る日の夕暮なりしが、余は獣苑を漫歩して、ウンテル、デン、リンデンを過ぎ、我がモンビシユウ街の僑居《けうきよ》に帰らんと、クロステル巷《かう》の古寺の前に来ぬ。余は彼の燈火《ともしび》の海を渡り来て、この狭く薄暗き巷《こうぢ》に入り、楼上の...
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往きてこれと遊ばん勇気なし

彼《かの》人々の嘲るはさることなり。されど嫉むはおろかならずや。この弱くふびんなる心を。 赤く白く面《おもて》を塗りて、赫然《かくぜん》たる色の衣を纏《まと》ひ、珈琲店《カツフエエ》に坐して客を延《ひ》く女《をみな》を見ては、往きてこれに就...