古典

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君が家に送り行かん

「君が家《や》に送り行かんに、先《ま》づ心を鎮《しづ》め玉へ。声をな人に聞かせ玉ひそ。こゝは往来なるに。」彼は物語するうちに、覚えず我肩に倚りしが、この時ふと頭《かしら》を擡《もた》げ、又始てわれを見たるが如く、恥ぢて我側を飛びのきつ。 「...
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我を救ひ玉へ、君。

彼は驚きてわが黄なる面を打守りしが、我が真率なる心や色に形《あら》はれたりけん。「君は善き人なりと見ゆ。彼の如く酷《むご》くはあらじ。又《ま》た我母の如く。」暫し涸れたる涙の泉は又溢れて愛らしき頬《ほ》を流れ落つ。「我を救ひ玉へ、君。わが恥...
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わが大胆なるに呆れたり

彼は料《はか》らぬ深き歎きに遭《あ》ひて、前後を顧みる遑《いとま》なく、こゝに立ちて泣くにや。わが臆病なる心は憐憫《れんびん》の情に打ち勝たれて、余は覚えず側《そば》に倚り、「何故に泣き玉ふか。ところに繋累《けいるゐ》なき外人《よそびと》は...