山川 信一

古典

第十六段 ~その一 熟年離婚~

昔、紀有常といふ人ありけり。三代のみかどに仕うまつりて、時にあひけれど、のちは世かはり時うつりにければ、世の常の人のごともあらず。人がらは、心うつくしく、あてはかなることを好みて、こと人にもにず。貧しく経ても、なほ、むかしよかりし時の心なが...
古典

第十五段 ~旅の恋~

昔、陸奥の国にて、なでふことなき人の妻に通ひけるに、あやしう、さやうにてあるべき女ともあらず見えければ、 しのぶ山しのびてかよふ道もがな人の心のおくも見るべく  女、かぎりなくめでたしと思へど、さるさがなきえびす心を見ては、いかがはせんは。...
古典

第十四段 ~素養の壁~

昔、男、陸奥の国にすずろにゆきいたりにけり。そこなる女、京の人はめづらかにやおぼえけむ、せちに思へる心なむありける。さてかの女、 なかなかに恋に死なずは桑子にぞなるべかりける玉の緒ばかり 歌さへぞひなびたりける。さすがにあはれとや思ひけむ、...