2020-04

古典

人心の荒廃

何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云う災いがつづいて起った。そこで洛中のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の...
古典

この男のほかに誰もいない

広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗りの剥げた、大きな円柱に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。それ...
古典

「羅生門」という題名と書き出し

羅生門        芥川龍之介 ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。  若葉先輩は、前置き無しに話し始めた。「では、まず題名から。「羅生門」は、「羅城門」とも書くんだ。では、なぜ「城」ではなくて、「生」を...