をはな よみ人しらす
ありとみてたのむそかたきうつせみのよをはなしとやおもひなしてむ (443)
有りと見て頼むぞ難き空蝉の世をば無しとや思ひなしてむ
「有ると見て頼りにするのは難しい。現世を無いと決めてしまおうか。」
「(頼む)ぞ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「難き」は、形容詞「難し」の連体形。ここで切れる。「空蝉の」は、現世の意で「世」に掛かる枕詞。「(世を)ば」は、係助詞「は」が濁ったもの。取り立ての意。「「(無し)とや」の「と」は、格助詞で引用の意を表す。「や」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして文末を連体形にする。「(思ひなし)てむ」の「て」は、意志的完了の助動詞「つ」の未然形。「む」は、意志の助動詞「む」の連体形。
この世の中にはあると見て頼りになる物はまず無い。すべて頼りにならない物ばかりだ。それならいっそのこと、生きているこの世を無いものとして決め込んでしまおうか。そうした方がましかも知れないなあ。
無常観を詠んでいる。背景にこの植物の持つイメージが用いられている。確かに、この花を見ていると、そんな思いになってくる。歌では、「有り」と「無し」を対照的に用いているところに工夫がある。
コメント
「尾花」、心許無く風に揺られる様が歌の無常感を象徴しているようですね。「おもひなしてむ」が寂しい。
空蝉の世を儚しと嘆くより現の恥を花と語らん
上手い返しですね。主張に共感します。返し、
嘆くなく恥を思はずひたすらに今日をばまづは生きてみむとす
「をはな(尾花)」ススキでしょうか。思い草の「おもひ」も候補でしたが、草が続かないので、やはり前者かと思います。
随分と後ろ向きな歌ですね。誰かに裏切られたのでしょうか。あるいは、ススキの無常感がそういう気持ちにさせたでしょうか。
正解です。ススキには、こういうマイナスのイメージが伴いますね。『船頭小唄』にも、「オレは河原の枯れ芒・・・」とありましたっけ。