《儚きもの》

うつせみ 在原しけはる

なみのうつせみれはたまそみたれけるひろははそてにはかなからむや (424)

浪の打つ瀬見れば玉ぞ乱れける拾はば袖に儚からむや

「うつせみ 在原滋春
波が打つ瀬を見ると玉が乱れた。それを拾うなら袖に儚いだろうか。」

「(見れ)ば」は、接続助詞で条件を表す。「(拾は)ば」は、接続助詞で仮定を表す。「(儚から)むや」の「む」は、推量の助動詞「む」の終止形。「や」は、終助詞で疑問を表す。
波が打つ瀬を見ると、しぶきが玉のように砕け散っていた。もしそれを拾って袖に入れたら、儚く消えてしまうだろうか。美しいものは儚く捉えがたい。あの壊れやすい蝉の抜け殻のように。
「打つ瀬見」に題の「うつせみ」が入れてある。波の雫の玉の儚さを蝉の抜け殻の壊れやすさに重ねている。「うぐいす」「ほととぎす」と動物が続いているので、「うつせみ」は蝉の抜け殻である。ただし、「うつせみ」の本来の意味である「この世の人。人間。」が暗示されてもいる。

コメント

  1. まりりん より:

    この時は風が強かったでしょうか。波打ち際に、飛沫がキラキラと玉のように砕け散っている。思わず拾って袖に入れたくなる。でも、拾った途端に玉は消えて指の間からこぼれ落ち海に帰ってしまう。。触れたら壊れてしまう、儚いもの。
    人間も、その生涯は短く、壊れやすくて儚い。蝉の抜け殻と同じように。。

    • 山川 信一 より:

      雫の玉は美しく見えても手に取ることはできません。まるで、その儚さは人の夢のように。蝉の抜け殻は人生の儚さに通じますね。

  2. すいわ より:

    「美しいものは儚く捉えがたい」「この世の人、人間」、なるほど「夢」は美しく、理想の形を見せるけれど、虚ろで実態がない。玉かと思い手を伸ばし袖に受けようとしても消えてしまう波飛沫、空蝉のような虚しさ。同じ濡れるのなら辛くとも、みっともなくても、自ら流した涙で濡れた方がきっと心は満ちますね。

    • 山川 信一 より:

      この歌の内容は、そうだろうとは思えますが、それは結論じゃなくて出発点ですよね。「同じ濡れるのなら辛くとも、みっともなくても、自ら流した涙で濡れた方がきっと心は満ちますね。」に共感します。

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