雪のうちの梅花をよめる きのつらゆき
うめのかのふりおけるゆきにまかひせはたれかことことわきてをらまし (336)
梅の香の降り置ける雪に紛ひせば誰かことごと分きて折らまし
「雪の中の梅の花を詠んだ 紀貫之
梅の香が降り置いている雪に紛れるのであったら、誰が別々に区別して折るだろうか。」
「(梅の香)の」は、格助詞で主格を表し、「紛ひせば」に掛かる。「(置け)る」は、存続の助動詞「り」の連体形。「(紛ひせ)ば」は、接続助詞で仮定を表す。「(誰)か」は、係助詞で反語を表し、係り結びとして働き文末を連体形にする。「(折ら)まし」は、反実仮想の助動詞「まし」の連体形。
梅の花に雪が降り置いて、花の色は雪に紛れている。もし雪にも香があって、梅の香に紛れるのであったら、一体誰が梅の木を他の木と区別して折ることができるだろうか、できはしない。
降る雪を背景にして、梅の花の魅力を詠んでいる。梅の花は、雪に紛れるほど白い。枝に雪が降り置くと、どの木も梅の木のよう見えてくる。だから、もし雪に香りがあったら、どれが梅の木か区別できなくなってしまう。区別できるのは、香りが梅の花にはあり、雪には無いからだ。梅の花は、雪に紛れる白い色と雪に紛れない強い香りを持っている。それが梅の花の魅力なのだと言う。
この歌は、雪に香りがあるならばという意表を突く大胆な仮定によって、梅の特徴である色と香を見事に描き出している。さすがは貫之の歌である。
コメント
梅の「香」なのですよね。部屋から眺めて見分けがつかないというのではなく、一歩踏み出し庭先に出て一早い春を手に入れようとしている。
折角咲いた梅の花なのに雪がその上に降り置いてしまった。見分けがつかないばかりか、香を焚き染めた衣のように、雪にも梅の香りが移ってしまったら、香りを頼りにしようにも区別がつかないではないか、、。
現実には雪に香りが移ることはないけれど、春(梅)に染む雪と思うと、梅のその香りが凍てつく冬を溶かし、むしろ鮮烈に香りの記憶を呼び戻すように思えます。「雪のうちの梅花」、隠されると掘り起こしたくなりますね。
雪の中で咲く梅は、雪に紛れることのない魅力を持っています。それをどう言い表すか?実際に庭に降り立ち、考えたのでしょう。そして、雪と変わることのない白さ、雪には無い香り。ああこれが梅の花なのだと発見したのでしょう。
雪に香りがあったら…抱いたことのない発想が、とても印象的な歌です。
色と香り、視覚と嗅覚で見事に梅の魅力を表現していますね。
梅の花は雪が降り被って見えなくなっているけれど、その香りでしっかり自己主張している。その存在感に、冷たい雪の中にも生命力を感じます。
雪と梅の花の共通点、相違点を考えます。すると、雪に香りがあったら、区別できない。ああ、これが梅の花なんだと気が付いたのでしょう。理にかなった発想ですが、確かに新鮮ですね。