《秋の音》

題しらす よみ人しらす

あきはきをしからみふせてなくしかのめにはみえすておとのさやけさ (217)

秋萩を柵み伏せて鳴く鹿の目には見えずて音の清けさ

「秋萩を絡め倒して鳴く鹿の、目には見えないものの、音の何と澄み通っていることよ。」

「鹿の」の「の」は、格助詞で、「音」に掛かる連体修飾語を表す。「目には見えずて」の主語は作者であり、挿入句である。「清けさ」は体言止めで、詠嘆を表す。
鹿が秋萩と戯れ、萩を脚に絡めて倒して鳴いている。その姿は目には見えないけれど、その物音や鳴き声から鹿の様子がはっきりわかる。秋の空気の中で、何と澄み通って聞こえることか。
作者は家の中にいるのだろう。鹿の姿は見ていない。しかし、その物音でその様子が手に取るようにわかる。「音」とあるのは、鳴き声だけでなく、鹿が立てる物音全てを指しているからだ。秋の澄み通った空気感が伝わってくる。秋は、音までが澄み通っていて、事物をありありと想像させると言うのだ。

コメント

  1. すいわ より:

    足にまとわりつく萩を踏み伏して鹿が鳴く。その様子は見えていないのに、澄んだ空気は何ものも遮る事なく、秋草となずむ鹿の様子をその声と共に届ける。
    鹿の動きづらい実際には見えていない停滞感のあるビジョンと、それとは正反対にクリアに伝わる音の対比で、より一層、秋の空気の清明さが感じられます。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、見えない景観と聞こえる音が対比されているのですね。それによって、クリアな音と共に秋の空気の清明さが伝わって来ますね。素敵な鑑賞です。

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