《触覚と聴覚》

題しらす よみ人しらす

あきのよはつゆこそことにさむからしくさむらことにむしのわふれは (199)

秋の夜は露こそ殊に寒からし草叢ごとに虫の侘ぶれば

「秋の夜は露こそが特に寒いらしい。草叢ごとに虫がつらがって鳴いているから。」

「秋の夜は露こそ」は、「は」で主題を提示し、「こそ」で対照を限定している。「らし」は、根拠のある推定の助動詞の已然形。ここで切れ、以下で根拠を述べている。
秋の夜は気温が下がる。気温が下がれば草叢には、当然露が置く。その露は、冷たく寒いと思われる。なぜなら、草叢ごとに虫があんなにつらがって鳴いているのだもの。じゃなきゃ、あんなに大きな声で鳴くはずないから。
新たに露が登場する。露も秋の夜を特徴づける重要な要素の一つである。では、その冷たさ寒さをどう表すか。そこで虫の鳴き声と取り合わせることを考えた。虫の鳴き声が大きければ大きいほど、寒さが強調されるという仕掛を作った。声によって、寒さを表す仕掛である。これで、読み手は、虫の音を大きさを草叢の寒さとしても感じることができる。つまり、作者は、触覚と聴覚を結びつけたのである。

コメント

  1. らん より:

    「寒いんだよー、冷たいんだよー」と
    虫が鳴いてるようです。
    鳴き声が大きくなるほど、寒そうだなあと感じます。

    • 山川 信一 より:

      この歌で虫の音が違って聞こえてきますね。あれは、寒がっているんだと。
      寒さは草叢から始まるようです。

  2. すいわ より:

    露置くほどに秋は深まってきているのですね。今とばかり競うように鳴く虫たち、命の終わりを嘆いての声なのか。光る数多の冷たい露、それは寂しさに流した虫たちの涙の雫なのかもしれません。

    • 山川 信一 より:

      秋の深まりをこんな風にも表現できるのですね。主題は秋の深まりであって、露も虫の音もそのための題材なのでしょう。しかし、とても味わい深い題材ではあります。

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