第百十七段  悪い友・良い友

 友とするにわろき者、七つあり。一つには、高くやんごとなき人。二つには、若き人。三つには、病なく身強き人。四つには、酒を好む人。五つには、猛く勇める兵。六つには、虚言する人。七つには、欲深き人。
 よき友三つあり。一つには、物くるる友。二つには、医者。三つには、智慧ある友。

「友とするのに悪い者が七つある。一つには、身分が高く畏れ多い人。二つには、若い人。三つには、病気をしない頑強な人。四つには、酒を好む人。五つには、勇猛で奮い立っている兵士。六つには、嘘をつく人。七つには、欲深い人。
 よい友が三つある。一つには、物をくれる友。二つには、医者。三つには、智慧のある友。」

短文を連ねた文体は簡潔でわかりやすい。また、レトリックで言う列叙法を用いている。
理由は、自明のこととして、一切書いていない。その結果、読み手は、書き手の意図を推し量る。その理由を理解しようと努める。そして、作者の主張に共感を抱くことになる。これも、説得力を持たせるテクニックの一つである。
では、その理由を一通り考えてみる。まず「わろき友」から。
一「高くやんごとなき人」二「若き人」三「病なく身強き人」は、いずれも基準は自分である。したがって、優れた者には引け目を感じてしまう。これは不愉快である。また、彼らは劣る者の気持ちが理解できない。したがって、付き合いづらい。四「酒を好む人」五「猛く勇める兵」は、手に負えない。相手のなすがままになってしまう。主導権を握られっぱなしになるのは不愉快である。六「虚言する人」は、裏切られたり、騙されたりするのは不愉快である。七「欲深き人」は、こちらが損をすることになりがちである。常に気を抜けないのは気詰まりである。
次に「よき友」の場合。一「物くるる友」は、何であれ物をもらうのは嬉しい。好かれている証だし、自分がそれに値する人物であると思えるのは愉快である。二「医者」三「智慧ある友」は、困った時、いざという時に助けてもらえる。
兼好は、自己の目の付け所のよさを誇示しているのだろう。もちろん、この分類が唯一の正解ではない。しかし、確かにいいところを突いていて、納得させられる。また、友に限らず、「男」「女」「夫」「妻」「恋人」「教師」「生徒」「上司」「部下」などについて、自分でも考えてみたくなる。それを誘ってもいるのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    悪い友、最初の三つは「嫉妬」、四つ目五つ目は理性的でない事、力任せのゴリ押しに対する「嫌悪」、六つ目7つ目はそのまま「嫌な人」。兼好は高貴なひとを尊びながら羨む自分が嫌なのでしょうね。若さへの羨望も。自身は腺病質だったのか?屈強な人にも引け目を感じている。理性的でない、嘘つき、欲深、これは誰もが共感するのでしょうけれど、「悪い」と彼が思うもので彼自身の姿が見えて来ます。同様に読者も考えさせられる事で自身の本質に向き合う事になる。
    良き友、物をくれて、医者で、賢くて、、やはり兼好、病気がちだったのでしょうか?そして自分に都合の良い人が友?というの?と考えさせたいのでしょうね。

    • 山川 信一 より:

      何かについて意見を言えば、その人が見えてきます。特にこういう物の見方は尚更ですね。それでも、兼好は読み手に共感して貰えるように気を配って言っているように思います。
      じゃあ、あなたなら何と言いますかと問われると、読み手が答えに窮することを予想した上で。なかなか、したたかです。

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