第九十六段   実用的知識の重要性

 めなもみといふ草あり。くちばみにさされたる人、かの草を揉みて付けぬれば、則ち癒ゆとなん。見知りておくべし。

めなもみ:薬草。雌生揉。秋に黄色の花を付ける。
くちばみ:マムシ。毒蛇。

「めなもみという草がある。マムシに噛まれた人がこの草を揉んで付けると、たちまち治ると言う。見知っておくとよい。」

めなもみは、現代でも薬草として知られている。調べてみると、酒で蒸したものは「脚の無力感、関節の痛み、四肢麻痺、半身不随、足腰のだるさ、じんま疹、湿疹、虫刺され、毒蛇による咬傷、不眠、落ち着かない、高血圧」などに効果があると言う。ならば、マムシに噛まれても、ある程度の解毒作用があるのかも知れない。確かに知っておくに越したことはない。たちまち治らなくても、応急処置ぐらいにはなる。
この段は、一般化するなら、実用的な知識の重要性を説いている。生きていくには、高尚な知識だけでは不十分であり、生活上のちょっとした知識も蓄えておくべきだと言うのだ。
作品構成からすれば、「心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつく」る『徒然草』という作品の性格を踏まえてのものだ。段の内容にメリハリを付けているのだ。

コメント

  1. すいわ より:

    「オナモミ」は有名ですが「メナモミ」もあるのですね。箸休め的な効果の段と思えば良いでしょうか。豆知識のような事も挟み込む事でリフレッシュ出来て、読み手を先へと誘います。
    マムシのことを「くちばみ」と呼んでいたのですね。「口喰む」、噛みつかれてその傷口を見ると「刺された」ような形状の傷跡が残る。「噛まれた」とは言わず「刺された」と言っているところが面白いです

    • 山川 信一 より:

      「オナモミ」はいわゆる「ひっつき虫」ですね。「メナモミ」は「オナモミ」と同じ科ですが、属が違うそうです。トゲトゲが「オナモミ」、ベダベタが「メナモミ」とか。
      「刺された」と言うのは、蛇を虫の仲間と捉えていたからでしょうか。

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