《悪いのは桜じゃない》

春宮のたちはきのちんにてさくらの花のちるをよめる ふちはらのよしかせ

はるかせははなのあたりをよきてふけこころつからやうつろふとみむ (85)

春風は花の辺りを避きて吹け心づからや移ろふと見む

帯刀の陣:東宮御所を警護する武官の詰め所。
こころづから:自分の心から。「こころと」

「皇太子の帯刀の陣で桜の花が散るのを詠んだ  藤原良風
春の風は桜の花の辺りを避けて吹け。桜が自分の心から散るのかを確かめよう。」

花を散らす心ない春風よ、どうか花の辺りを避けて吹いてくれ。桜が自分の意志で散るのかを確かめて見たい。我々を悲しませるのは春風であって、桜の花ではないはずと信じたいから。作者は桜の花そのものを恨めしく感じたくないのだ。
「春宮」から「春風」を、「帯刀」から桜を春風から守ることを連想したのだろう。しかし、帯刀でさえも、春風から桜を守り切れないと言う思いが感じられる。だから、春風に桜の辺りを避けて吹けと命じている。

コメント

  1. すいわ より:

    そしてこの歌を詠んだのが「よしかせ」。私は良い風だから、春宮様の御世の手助けこそすれ吹き散らす事など間違えてもしない、私が風をしっかり取り仕切りましょう、と?藤原一族、恐るべし、と思ってしまいました。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、作者は良風ですね。ただし、春風と違って私は良い風。この私が風に頼んでみましょう・・・と想像が膨らみますね。心にくい編集です。

  2. らん より:

    ほんとだ、良風だって。
    自分はいい風だ、春風は桜の花びらを散らせる悪ものだぞって。
    うわあ、なんだかいやらしいなあ。

    • 山川 信一 より:

      良風が悪者の春風を詠むところが面白いですね。貫之はその辺も考えて編集しているのでしょう。

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