《落花乱舞》

題しらす  よみ人しらす

このさとにたひねしぬへしさくらはなちりのまかひにいへちわすれて (72)

この里に旅寝しぬべし桜花散り紛ひに家路忘れて

しぬべし:「し」動詞「す」の連用形。「ぬ」完了の助動詞の終止形。「べし」推量の助動詞の終止形。

「この里に旅寝をしてしまうに違いない。桜花が散り乱れるために家路を忘れて。」

桜を見にこの里まで来た。しかし、それは桜の散り際の頃で、花びらが散り乱れていた。地面はみるみるうちに桜の花びらで覆われていく。これでは、家に帰る道がわからないではないか。困った事態だが、これはこれで美しい。桜の花は散っても美しいのだった。今宵はこの里で、桜に包まれて寝ることにしよう。さぞかし美しい夢が見られるに違いない。
第二句までとそれ以下が倒置になっている。最初に結論を述べて、最後に理由を明らかにしている。読み手に疑問を懐かせ、最後に答えを言う仕掛によって、最後まで読む気にさせている。しかも、最後から最初へと繰り返し読む仕掛にもなっている。

コメント

  1. すいわ より:

    右も左も、上も下もわからない。桜吹雪の白い闇。もう、家路への道も見えないほど。桜を求めていたはずなのに、桜に閉じ込められてしまった。ここに留まるより他ない、、白昼夢のようですね。この歌を聞いた人も、ぐるぐると歌に閉じ込められて、、。

  2. らん より:

    ほんとだ、倒置法ですね。
    地面がみるみるピンク色になっていく様子、私も見たことがあります。
    そういうのも大好きです。
    桜は最初から最後まで全て美しいですね。

    • 山川 信一 より:

      この歌は、倒置法によって、桜が散る短い時間を永遠の繰り返しとして表しました。読み手は、その時間の中に閉じ込められます。
      散る様を悲しがっているばかりが歌ではありません。その美しさに酔う楽しみもあります。

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